黄色い水仙

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    雨が降りだした。   雲は暗く低く垂れ込めている。暫く止みそうにない。     自分がなんでここに立ってるのかなんて考える事に意味はあるのか? 生きている事に意味はない。   「生きること」の意義の喪失。そういう思想の蔓延。 社会の荒廃。自殺、犯罪の増加。   世の中は豊かになるだけなって伸び悩んだ末に精神が崩壊する。 人々は強かに生きていく事を忘れてしまった。     母は私の目の前でそんな人間の一人となった。       私は今、警察署にいる。 ちょっとここで待ってて、と小さな部屋に入れられた。第一発見者だから疑われているのかもしれない。心細くて胸が切なく軋む。   暫くして刑事らしき人がきた。缶コーヒーを机に置き、どうぞ、と言った。 見上げると少し微笑んで、大丈夫かい?と言いながら向かいの席に座る。   「今、お母さんの検視が終って監察医さんと話してたんだ。」 私は俯き、缶コーヒーのプルタブに指をかけた。相槌代わりにカシッと音が響く。   「突然あんな事あって驚くよなぁ。辛いよなぁ。おじさんがあんたの年の頃にゃ何も考えて無かった。」 コーヒーを一口、暖かい液体がゴクリと音をたてて喉を通る。 ブルース・ウィルスのような濃い顔と薄い頭の刑事が眉間を寄せて目を細めている。あんまりらしくって少し可笑しかった。   「大変だと思うけど、お母さんが落ちた時の状況と自殺…の事情とか思いつく範囲で教えてほしいんだ。」   飲みかけの缶コーヒーを机に置いた。コトッと音をたて、指を離した。暖かい感触の喪失感が侘しかった。      
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