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窓辺に首をもたげて慎ましげに美しく咲く花が生けてある。
「黄色い水仙!綺麗でしょ!」
花瓶に生けてある大量の水仙を抱えてすごく嬉しそうだ。
「ん、すんごくいい匂い。」
「本当、食べちゃえば私もこんないい匂いになるかしら?」
「水仙は毒があるよ。」
「あら大変。食べたら死んじゃう?」
「うーん。死ぬまでいかないかもしれないけどお腹は壊すかもよ?」
「うふふ、大変ね。」
「ん、大変。」
「香りきつすぎる?」
「少しね。水仙ってこんなに匂いきついなんて知らなかった。」
「ごめんね、窓開けるわ。」
「気にしないで、私この匂い好き。」
母は窓を開けた。
生温い風が部屋に入ってくる。
「摩耶ちゃん、お母さんとっても黄色い水仙が好き。一番好きよ!」
母は大好きな黄色い水仙を抱き抱え、甘い香りに包まれて幸せそうに笑っていた。
そうしてゆっくりと、そのままゆっくりと、後ろに向かって倒れていく。窓の外へ倒れていく。
天使のように幸せそうに微笑みながら。
そのまま空に向かって飛び立ってくれればどんなによかったか。隠していた翼を広げて飛び立ってくれればどんなによかったか。
鈍い音がした━━━
「お母さん!
お母さん!お母さん!」
どうしよう、大変、お母さんが…
窓辺へ駆け寄る。
下を覗き込む。
こめかみがチカチカする。立ってられない。腰が抜けたみたい。心臓が早鐘を打つ。
ここは5階。
遥か階下の白っぽい石畳に赤い翼の生えた母の姿があった。
黄色い水仙の花とキラキラ輝く花瓶の破片が赤い翼を装飾していた。
母は天使だったのだ。
階下での人々が騒ぐ声が聞こえた。
部屋には水仙の、…母の残り香が漂っていて、私はその香りに悪酔いした。
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