黄色い水仙

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    母の死の意味なんて到底受け入れられてなかったので、思いつくままつらつら話した。 話すだけ話したら、ゼンマイが切れた人形のように動かなくなってしまった私に、やっぱり眩しそうな顔をして刑事はいうのだ。   つらかったな、と。       小さな部屋を出ると父が待っていた。 葬儀屋が母の遺体を引き取りにくるのを待つそうだ。   どうやら私は容疑者として疑われたわけではないらしい。こんな事件でも調書をとっていたようだ。 最初はよく解らずに話していたが話してる内に考えがまとまってきて、母の死は抗いようのない事実だということが素直に頭に入ってきた。       葬儀屋がきて一通りのお悔やみの挨拶をする。 ずんぐりむっくりの人の良さそうな四十絡みの男と、背が高く顔つきは三十そこそこといった感じなのにサラサラの髪は胡麻塩で半分は白髪といった不思議な男だ。特に目が綺麗で賢そうだった。   「私は主任の岡田と申します。こちらは仏様にお化粧させて頂く美馬です。」 「宜しくお願いします。」 美馬という男は小さく会釈した。 父は自分と私の紹介をした。   警察と葬儀屋と父が少し話して母の遺体は葬儀屋の車に納められた。     母を乗せた車の前で葬儀屋が式などの段取りを簡単に説明した。   「花は黄色い水仙じゃなきゃダメ。お母さんが落ちる前に私にいったのよ。黄色い水仙が一番好きって。」   父と岡田は目を丸くしていた。美馬は柔かい眼差しで母の乗った車を見ていた。       母と葬儀屋を見送って私と父は警察から出た。 レクサスの母の指定席はそのままにして私は後部座席に乗っている。   「摩耶、お母さんは事故で死んだ事にしておくからな。」 「何も自殺だなんて言ってないじゃない。実際事故だったのかもしれないんだから。」   父は何も答えずに煙草をふかした。        
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