第一章

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電車を降りると、雲で真っ黒になった空が広がっていた。 おかしいな。学校を出た時は晴れていたのに。女心と秋の空、とはよく言ったものだ。 「ひと雨来そうだな……」 降ってくる前に帰ろう。 僕は歩きだした。 改札とプラットホームをつなぐ連絡橋は、スーツ姿の会社員や制服姿の学生が行き来していた。僕と一緒に降りた乗客や、今から電車に乗る人たちだろう。 この町にもこんなに人が居たんだな。毎度の事ながらびっくりする。 片田舎の駅だけど、混む時は混む。 一応、新幹線の始発駅だし、駅前はそれなりに華やかだし。 そんな人混みの中を歩いていると、傘を持っている人がちらほらと見えはじめた。 ビニール傘だったり折りたたみ傘だったり、形は様々だけど、濡れているかは確認出来なかった。 (降ってなければいいけど) 階段を下り、改札を抜ける。 外を見ると、案の定雨が降っていた。 「あちゃー、降り出したか」 けっこう強い降りだ。 僕と同じように足止めをくらっている人も何人か居る。 (いけね、傘持ってきてねぇや) 鞄を漁っていて気付いた。この前使って、出しっぱなしだ。 (やれやれ……) 意を決して飛び出していく人もいたが、そんな気にはなれなかった。 制服が濡れるのは嫌だし、教科書が濡れるなんてもってのほかだ。 バスで帰る手もあるけど、歩いて帰れる距離なのに、わざわざ利用する事もない。 (早く止めばいいけど) 仕方ない。止むのを待つ事にした。 外では、ビラ配りをしている人たちも雨宿りをしている。 ロータリーでは路線バスが忙しなく動き回り、水しぶきを飛ばしていた。 雨に濡れたビル群も、いつもとは違う趣があった。 (そういえば) ふと思い出される、一人の少女。 「あの日も、こんな雨の日だったっけ……」 僕は空を見上げた――。                                              
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