第二章

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「えっ?」 傘を傾けると、彼女は驚いたように僕を見た。 肩が濡れてしまうけど、この際気にしない。 「濡れますよ」 僕が言うと、彼女は何か考えているような顔をした。 それから「あっ、そういう事か」みたいな表情をして、 「ありがとう」 と笑顔で言った。 そしてまた正面を向いた。 きれいな子だな、と素直に思った。 腰の辺りまで伸びた黒髪は絹糸のように美しく、雨露に濡れて艶(つや)やかに光っていた。 整った目鼻立ちは繊細な彫刻のようで、どこか大人びた雰囲気があったけど、歳相応の柔らかさがあった。 また、着崩していない制服が落ち着きさを醸し出し、とても清楚に見えた。 可愛いというより綺麗。 そんな言葉が似合う女の子。 それにさっきの笑顔。まるで天使のような―― (って、僕は何を考えている) 恥ずかしさが込み上げてきた。 顔が熱い。 「ドジですよね」 彼女が話し掛けてきた。 「ん?」 平静を装い、何とか返事をする。 「私、いつもは傘を鞄に入れているんですけど、今日は家に置いてきちゃって……。降ってくるって分かっていれば、ちゃんと持ってきたのに」 僕を見て笑う彼女。 直視は出来なかった。 「仕方ないですよ。あの予報士は、よく外す事で有名だから」 視線は信号の方に向いていた。 「そうですね」 また微笑んで、彼女も信号を見た。 瞬間、信号が変わった。 「どうもありがとうございました」 お辞儀をして去ろうとする彼女。 「待って」 無意識に出た言葉。 「これ、使って下さい」 気が付けば、自分の傘を差し出していた。 「え、でもあなたが……」 「いいから」 彼女の手を引っ張り、傘を握らせた。 「今度会った時にでも返して下さい。それじゃ」 そう言って僕は駆け出した。 「ちょっ、ちょっと――」 彼女は追おうとしたみたいだけど、信号は赤に変わっていた。                                              
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