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(名前くらい訊いておけばよかったなぁ)
あれから一年くらい経つけど、結局彼女とは会えないでいた。
(何であんな事したんだろう)
いつもの自分ならしなかった事だろう。あの時は勝手に体が動いていた。
ふと、手を見る。
今も残る、彼女の温もり。
(……何考えてんだ僕は)
思い出して恥ずかしくなってきた。
顔が熱い。
(雨、止まないなぁ……)
火照った顔を冷やすように空を見上げた。
「これ、使って下さい」
聞き覚えのある声がした。
「えっ――」
隣を見ると、あの時の少女が立っていた。
「また、会いましたね」
にっこりと笑う彼女。
手にはあの時渡した傘が握られていた。
「これはお返ししますね」
僕の手をとり、その傘を握らせた。
「あっ、ありがとう……」
僕は夢でも見ているのか?
「どうかしましたか?」
首をかしげる彼女。
「いっ、いや。突然の事だから、ちょっとびっくりしちゃって……」
僕が答えると、彼女は天使のような笑顔で言った。
「それは私も同じですよ」
トクン……
トクン……
鼓動がはっきりと聞こえる。どうやら夢ではないようだ。
……やけに速い気がするけど。
「ねぇ」
彼女は自分の鞄から、水色の折りたたみ傘を取り出した。
「一緒に、帰りませんか?」
……断る訳がない。
僕も笑顔で返した。
「もちろん。喜んでっ!」
普段は信じちゃいないけど、この時ばかりは神様の存在を信じてもいいと思った。
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