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第一章
九月末ともなれば、朝晩は肌寒さを感じるまで気温は下がる。
当然、冷気から身を守る防護は必要なわけで――温もりと平穏とまどろみを恵む布団を失って久しい有川蓮は、「ん……」と声を漏らし、寒気に耐えかねて目覚めの時を迎えた。
穏やかな覚醒とは程遠い、好ましくない目覚め。
ちらりと壁にかかった時計を見れば、まだ起きるには早い時間帯だった。枕元の目覚まし時計だって休眠状態を保っている。
眠りの縁から完全に脱しきれていない今なら、二度寝を貪ることに快楽を覚え、不快な目覚めなど忘れられるに違いなかった。幸い、時間的な余裕もある。
今一度、夢の世界に旅立っても何ら問題はなかった。
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