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右腕を捕まれてそのまま引きずり込まれる。
コンデンサのカゴに足を引っ掛けてどうにか留まろうとしたのだが、その瞬間、もう一つの存在を失念していた漲に決定的な隙が生じた。
漲引っ張る『腕』の方に注意が傾き、ゴツいブーツを履いた『足』の存在をすっかり忘れていたのだ。
「うわっ!」
その足は器用に漲の脚を蹴飛ばし、唯一漲をこの場に留めていたカゴの網目から離れてしまった。
がしゃん、という耳に付く音を出してラックは倒れ、中にあったコンデンサが無造作に飛び散る。
その瞬間、好機とばかりに腕の力が強くなる。
何の抵抗も出来なくなった漲は半ば絶望の表情を浮かべ、そのまま抵抗する間もなく段ボール箱の中へと引きずり込まれてしまった。
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店内は蛍光灯やネオンで明るく照らされ、各コーナーで商品の説明をする店員と、同じパーツを物色する客で溢れていた。
そんな店内の一角に、不思議と人気の無い処分品カートがあった。
そこには先程まで誰かがいたらしく、様々な機材の入ったカゴと床に落ちた数本のコード。
―――そして、倒れたコンデンサのラックが静かに置かれていた………………………
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