腕とオタクと異世界と

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その高い声が様々な場所で反射し、漲の頭の中で鐘のように響く。 一つだけに思えた声は明瞭なものになるにつれ声の波が二つあるのだと分かり、その二つは微妙に違う言葉を紡いでいるということもはっきりと理解できた。 『ここを出れば、あなたはもう後戻りは出来ませんよ?』 《ここを出なければ、あなたは先に進むことは出来ませんよ?》 全く同じ2つの声が響く。 だがその言葉は全く違うもの。 『ここを出れば、あなたは一生、あちらの世界で生きなければなりませんよ?』 《ここを出なければ、あなたは一生、この世界で生きなければなりませんよ?》 一つの声の二つの言葉がどうしますか?と問い掛ける。 意味の分からない声に漲は戸惑い、世界ってなんだよ、どうなってるんだ、と問う。 だが声は"どうしますか?"と同じ問い掛けを返すだけだった。 これに答えなければ何も進まないと理解した漲は、声が発する問いの答えをしばし考える ここから出れば戻れない。けど、ここを出なければ何も始まらない。 二つに一つ。 ――ならば… 漲の意志は固まった。
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