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「…………ま、まさかな…。路上ならともかく店内で行き倒れなんて…。
あれはマネキンだ。きっとそうだ」
電気屋にマネキンがあること自体がまず不自然なのだが、
漲は自分の中で組み立ててしまった計算式の答えをどうにか否定するために必死だった。
目の前の黒くてゴツいブーツを付けた"何か"は段ボール箱の隙間から突き出した状態で漲の眼前に伸びており、それは数々の段ボール箱の奥へと続いている。
漲は数本のコードを持ったまま、『脚のようなもの』の先を凝視する。
あの段ボール箱を退かせば…………
溢れる好奇心と少しばかりの探求心に生唾をごくり、と飲む。
だがそこまで考えて漲は思考を振り払った。
―――あれは人なんかじゃない。第一あんなに堂々と出ているんだから店員や客が気付かない訳が無いではないか。
もしこのまま興味本位で店の在庫を勝手に動かし、それが何の変哲もないマネキンだったとしたら。
そうだとしたら店内にいる人々から奇異な目線を向けられてしまう。行きつけの店なのでそれは勘弁してほしい。
また、もし"本物"だったとしても店内は大混乱。第一発見者として顔にモザイクをかけられて全国ネットで自分の顔が曝け出されてしまい、挙げ句の果てには店仕舞い。
どちらに転んでも自分には損の道しか残らない。
―――ならば…
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