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「…………………」
漲は何の反応も返さない。いや、返せないと言ったほうが正しい。
頭は正常に目の前の出来事を解析し理解もしている。だが行動を起こすという脳内信号までは手が回らない。
漲はただ目の前の腕と脚、そして声を聞いているだけだった。
『何だ、一体何が起こってる…?
目の前にマネキンの脚があって、その直後突然出てきた腕が俺の足を掴んだ。
それを外そうとしたら………』
「しゃ、喋っ…?!」
「……手を…、掴んで……、助けて………」
冷静に、冷静に、とヒートしているCPU(脳)を冷やして状況の分析を試みる。
そういえば一番重要なCPU買ってない、などと関係ない方向思考が逸れるがそれでも辿り着くことができた結論に驚愕。思わず叫んでしまう。
しかし、助けを求めるその声にハッとし、人目を気にすることも忘れてその腕を掴み、力の限り引き摺りだそうとした。
すでに漲の頭にマネキンや悪趣味な商品などという言葉はない。
目の前にあるのは『人の手』。
そして、助けを求める声を発するのは―――人―……
………………だが
「お、重…っ!」
思っていた以上に重量があったのか、脚や腕、そして目の前の段ボール箱もビクともせず微動だにしない。
しかしその感触はやわらかく温かい。それは漲に"本物"なのだと理解させるに十分だった。
「待ってろ!今出してやるからな!!」
もう漲にはここが店の中だという事などどうでもよかった。
目の前で人が助けを求めている。人目など気にしている場合ではない。
漲は今以上に腕に力を入れ引きずりだそうとする
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