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大和が見た、というのは久米の表情。
久米の顔にマウンド上では決して現れることの無い、恐怖が浮かんでいた。
久米はいつも変わらない表情のまま投げ続けることで有名だ。
実際に、磯島の中学、右田の一つ上の代ではそういう笑い話もあったと前に聞いている。
やつは人間じゃ無い。
マジ、怪物だ、と。
「先生の声はあの久米さんですらビビらせたんだぜ、おい」
好太が囁く。
隣に美鈴がいるので、大きな声では話せない。
大和の声も蚊が鳴くような声だ。
「そうだね。それで、思ったんだけどさ」
「なんだよ?」
「審判を先生にしてもらったら、相手チームは力を出せずに終わるんじゃないかな」
一瞬の間合いの後、好太はプッと吹き出した。
多分、美鈴が審判をしている光景を想像してしまったのだろう。
「それは無理よ」
目の前の好太が固まった。
「審判資格もってないから」
大和が美鈴を見ると、視線がぶつかった。
いつもの表情。
しかし、大和からとめどなく流れていく冷や汗。
そんなに焦る必要も無い場面ということはわかっている。
しかし、本能が危険だと告げていた。
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