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大和は全速力で走り出す。
磯島のような駿足であれば、もっと余裕を持って走れるのだろうが、生憎大和は鈍足だ。
せっかくバットがボールにぶつかったのだから全力で走らないでどうすると、昔好太が言っていて、何故か凄く共感した大和はいつでも遅い足を全力で動かしている。
大和はファーストベースを駆け抜け、減速しながらボールの行方を探したが、どこにもボールが無い。
そんな大和に一塁ベースコーチャーの加藤が近寄る。
「何してるんすか、走らなきゃ」
「でもボールが……」
「あれ、見てなかったんすか? ほら、ボールはあそこっすよ」
加藤が指差した先は、雨で人が疎らになっているアルプススタンド。
大和が青山堂高校のベンチを見ると、全員が立ち上がっていて、磯島がホームベースで待っている。
「ホームラン?」
「特大の。さ、走って」
加藤は微笑み、コーチャーズボックスに戻った。
そして、大歓声が球場内を包み込み、大和もやっと自分がホームランを打った実感が伴ってくる。
正直、長打を狙う気は無かったのでまだ信じられない部分があるが、ゆっくりとダイヤモンドを一周した。
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