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橘は蚊の鳴くような声で言い、一層小さくなった。
「このアイスコーヒーは野田君が?」
「飲んでいい」
「いや、でも……」
「俺は飲んだからもう飲めない。飲んでくれ」
「そうか……。ありがとう」
橘は缶を両手で持って飲み出した。
野田は席から立ち上がり、背伸びをする。
まだトレーニングルームで大和と好太は筋トレをしているだろうから、そろそろ戻らなくては。
そして、回りの視線があまりにも痛い。
恐らく、橘に何かいたずらしたとでも思われているようで、悪意と好奇が入り交じったような視線だ。
余り気にしないが、なかなかいい気分ではない。
「俺は行く」
「あれ、もうかい? もう少しゆっくりしていけば良いじゃないか」
「悪い、まだ練習の途中だから」
「そうか……」
橘は肩を落とした。
「勉強頑張れ」
「ありがとう、頑張るよ」
橘の返事を聞き、学食を出て行った。
歩きながら野田は、橘の意外な姿を思い出して微笑む。
野田がトレーニングルームに戻ってみると、好太と大和が汗だくになって体を鍛えていた。
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