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よしんば折れていなかったとしても、この腕ではプレーを続けることは出来ない。
「あー、腫れてきたね」
腕が、二倍から三倍近く膨れている。
脂汗も体全体に広がっていた。
「大和君」
美鈴が小走りで近づいてきた。
その表情は、見たことが無いほど暗く沈んでいる。
「先生………」
その時に大和は悟った。
多分、美鈴も大和の状態を見て覚悟したのだろう。
「代走に川上を」
美鈴は短く、審判に告げた。
それを聞いた大和は、右手をかばいながらベンチに引き下がる。
「大和君、動かない方が良いよ」
磯島が焦りながら言う。
「大和!」
好太も叫んだ。
「ごめん、皆」
もう、グラウンドに立っていられる程の余裕は無かった。
「……泣くなよ」
ぽつりと好太が言った。
だが、涙は止まらない。
今まで、これ程悔しい思いをしたことはないのだから。
皆はこれからも戦っていく。
しかし、その戦況を見届けることすら出来ないのだ。
奥歯を噛み締める。
そうしないと、叫びだしてしまいそうだった。
ベンチに戻った大和は、そのまま医務の人に奥へ連れていかれる。
そして、大和を欠いた青山堂高校野球部は延長のすえ、破れさった。
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