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八月某日。
私立、青山堂高校野球部グラウンドは、野球部員達が猛暑の中、汗を流しながら練習に励んでいた。
全員が汗まみれの泥まみれ。
ユニフォームはもちろん、顔まで砂埃で汚し、心身ともにボロボロだ。
「クソあちーな」
グラウンドの回りをジョギングしている小野好太は、額から大量の汗を流していた。
「まぁ、夏だからね」
「だいたい、夏だから暑いっておかしいだろ? 夏はもっと涼しくなって、冬はもっと暖かくなれよ!」
「わがままだなぁ」
好太の隣を走る志田大和は苦笑した。
その右手には包帯が巻かれている。
ただ、ギプスはつけられていないし、かなり緩くまかれているようだ。
「腕、どうなんだ?」
そっけない調子の好太。
「大分良くなってきたよ。ペンも箸も持てるようになってきたからね」
「そうか…………」
「珍しいね、腕のことを聞くなんて」
「ま、まぁな」
好太は口を閉じた。
あの試合は好太にとって触れたくないものだったのだろう。
それは好太自身ではなく、大和の事を思って。
だから、初めて腕の事を聞かれた。
あの試合から一ヶ月が経ち、好太も先を見始めているのだろう。
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