11人が本棚に入れています
本棚に追加
「久し振り」
にっこりと微笑む顔は、以前と変わらなくごく自然で。正直、少し救われた。
「あぁ…」
「元気だった?……って、そんな世間話をしてる暇は無いのよね。玄関口じゃちょっとアレだから、上がっても良い?」
有無を言わせぬ口調。
それに乗せられて頷くが、俺はそんな事よりも巴の後ろ手に隠れる様に存在するカートの事が気になって仕方がなかった。
玄関から上がる時、カートの中から抱き上げられたのはまだ小さな赤ん坊。視界が変わって嬉しいのか、ぱたぱたと手を動かしている。
彼女の子なのだろうか。
「…なぁ、その」
「ごめん、中入ってからにしよ?」
凜、と。先程とは比べ物にならないくらい冷めた声で拒絶され、俺は大人しく巴をリビングへ案内した。
つい一年前までは普通に此所に住んでいた彼女を"案内する"というのも、可笑しい話だが。
最初のコメントを投稿しよう!