第一夜 ペンギン

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あれからどれだけ遠くまで来てしまったのだろう。 前方からは海水の匂いがする。 もう少し先には海が広がっているのだろう。 でも、そこへ着けばどうなるというのだ。 街を出たからって抱えてる問題は解決しないし、何も変わらない。 分かっていた、 ココデハナイドコカハナイ それでも足は海岸へ向かっていく。 海岸には砂浜が広がっていた。 僕以外の人間の姿はなく、海と砂浜と僕だけがカクリョされた世界にあるようだ。 腰を下ろして海と空を二分する地平線を眺めていると、地が海が空が僕の中に入ってくる。 いや、逆か……。 僕がそれらに溶け込まれていく。 溶けていく。 溶けていく。 僕をここまで運んでた問題は、もうすぐ問題ではなくなる。 僕はもうすぐ世界と一体なるのだから。 意識がカラダを離れ外へ広がっていく。 もう疎外感はない、僕はすべてといっしょになる。 カラダにこびりついてわずかに残っていた意識が何かをとらえた。 ……ザッ。 もうほっといてくれ。 ザッ…ザッ、ザッザ。 何者かが近付いてくる。 僕は拡散していた意識をかき集めて目を開く。 目の前には変わらず海が広がっていた。 しかし、すぐに「危険」という名の気配を背筋に感じた。 振り向くと、正面に右に左にペンギン。 見渡す限りペンギン。 ペンギンの地平線が広がっていた。 なぜかペンギンから、嫌悪感が妙にはっきり感じられる。 ヤバイ…。 その瞬間ペンギンが猛スピードで突っ込んできた。 意識とカラダがうまく噛み合わない。 ぶつかる! ドカッ! 鈍い音とともに、衝撃でカラダが後ろへぶれる。 そして、ペンギンの集団が次々に突進してきた。 ドカッ! ドカッ! ドカッ! 波の音が徐々に近付いてくる。 落とされる。 僕は海に落とされる。 その恐怖を感じた瞬間に、目が覚めた。
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