見上げた空の色 (崇沽)

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  朔宵は表情の乏しい子供であった。柔らかい栗色の髪に猫のような目……口元はいつも閉ざされていた。 幼い頃からの英才教育とプレッシャー……そして愛を与えない母親の存在が大きいのだろう。 誰も信じない瞳は何も映していないようだった。   「……はっ!!」   ――キィンっ   剣の腕もなかなかのものだが子供の頃の二つ違いは大きい。   「もう一回しろ!!」   負けず嫌いな皇子は何度敗れても挑んでくる。 手を抜くとすぐにバレてしまうので、崇沽も毎日体力の限界まで勝負を続けた。   「殿下は好きなものはございますか?」   起き上がる体力もなく草に寝そべったまま話しかける。   「……朔宵だ。俺の名はデンカではないっ!朔宵と呼べ!!命令だ」   朔宵も草に寝そべったまま怒鳴る。まだそんなに体力があったのか……侮れない。   「……わかりました。朔宵様」   「“朔宵”だ!でなければお前の問いには答えん」   「しかしっ…………………………わかった。朔宵は何が好きなんだ?」   そう言った時の嬉しそうな朔宵の顔は忘れられない。 幼いながらに大人であることを要求されていたのだろう。 初めて見た年相応の笑顔に……崇沽はこの皇子とずっと共にあることを心に決めた。   「俺の好きなものは……目を瞑れ」   言われた通りに目を瞑る。瞼の裏を太陽が眩しく照らすのを感じる。   「こうした時に聴こえる風の音」   木々を揺らす風の音に聴き入る。 今まで風の音なんて気づかなかったのに…… こんなにそばに風はいた。   「そして……目を開けろ」   急に明かりが目に飛び込んで来る。   「こうして見上げた空の色だ」   目にしみる程の青が視界に広がった。 普通に見る空とは違った色に思わず息をのむ。   この皇子は 独りであったぶん色んなことに……些細なことにも気付ける、解する力がある。   横目にみた彼の顔はどこか強く見えた。   .
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