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毎日朝から晩まで一緒にいた。
第一皇子であるにもかかわらず朔宵は大人達に放置されていた。
正当な後継者ではないから……とか。それはかえってずっと共にいるのには都合が良かった。
近くの森まで馬で駆けたり
木に登ったり
川で泳いだり
軍師の真似事をして戦の計略を議論したりもした。
朔宵は年下とは思えない程に頭の回転も運動能力も優れていた。
そのせいか崇沽も彼を年下扱いはしなかった。
いつであったか高台の木に登った時……
「ここから見える土地は全て峯のものであり峯の民だ」
「朔宵が守ってやらなきゃな」
笑って言った崇沽に朔宵は首を振る。
「国は守られる程弱くない。王なんかいなくとも土地は肥え、民は生きる。
王が出来ることは存在することと見守ることだけだ」
声変わり前の幼い声は真剣だった。
「どういうことだ?」
「民が判断を間違わないように見守ること。
何もしなくとも国は伸びる。ただ間違いを修正したり伸びやすくする為に少しだけ手を加えるのが王の仕事なんだ。
そして……この国は守られているという安心を与える。
対象があれば祈れるし怒れるし感謝も出来る。王とは神の代わりに据え置かれた置物のようなものだ」
利発な皇子は王族の権力を否定した。
自分は決して偉いわけではない。他の人にそれぞれ役目があるのと何ら変わらないのだと言って笑った。
独りで殻に閉じこもっていた朔宵は自分の無力さを一番自覚していたのだ。
朔宵は
きっといい王になる
木の上から見た土地はどこまでも果てしなく広がっていて……
朔宵が見ている広い世界に目眩がした。
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