見上げた空の色 (崇沽)

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  そして今その望み夢見た場所に立っている。   禁軍を動かす若き軍師は新王【朔宵】――   そして崇沽は副軍師の位にあった。     見下ろす土地は一面の緑。初めての制圧となるこの地は美しかった。   状況は不利   敵兵の数はこちらの三倍はある。 たじろぐ兵達に朔宵は声を張り上げた。   「風は此方にある。我等に味方する追い風があるにもかかわらず……負けてもいいのか?」   ざわつく五千の禁軍を前に、朔宵は結い上げた髪を剣で勢いよく切り取った。   その髪を風に乗せる。 光に透けてキラキラと輝く朔宵の髪が向かった先は敵軍が陣を張る方向――   風は完全なる追い風だった   その新王の行動に兵達は戦気を取り戻し沸き立つ。   崇沽は自らの髪をもって兵を励ました勇ましい新王の横顔に囁いた。   「……怖くないか?」   隣りの王に声をかける。 褐色の瞳が日の光に透けて爛々と輝き、短い髪はなびいて風の存在を知らせる。 太陽を背にした王はあの頃の独り暗闇にいた皇子とは違っていた。   「お前程怖がってはいない」   ニヤリと笑った王は自信に満ち溢れている。   「はは……なら上等。私は全く怖くないからな」   「言ったな崇沽」   「貴方の……貴方の隣りなら怖くない」   その言葉に朔宵は少し照れて目線をそらし前を向いた。   「この戦が終わったらお前にも報酬を与えなくてはな。何を望む?何が好きか?」     朔宵の問いかけに崇沽は静かに目を閉じた。     「風の音と……」     そしてゆっくり目を開ける。   広がる空は青     「“貴方と”見上げる空の色を――」     その言葉に若き主は目を見開き……   そして笑った。             【見上げた空の色/完】image=167331791.jpg
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