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父の教育は厳しかった。毎日朝から晩まで続く稽古――
今思えば妻を失った寂しさを紛らわしていたのかもしれない。
私達姉弟は日に日に腕が上がっていった。
崇沽の小さな手足が痣で染まるのが可哀想で毎晩冷やしていた。怪我が減り、そんな時間も必要なくなってきた頃……
父は私にこう告げた。
「お前はもう稽古は必要ない。家事でもして稼いで来い」
「!?……何をっ私を武門の道に行かせるのではなかったのですか?そんなことをしていたら腕が落ちて……」
今までの毎日が無になるのが怖くて珍しく反論する。今では父より腕の自信はあるが幼い頃より身につけさせられた服従の心が声を震わせる。
「崇沽……あいつは筋がある。崇沽が使えなかった時の為の保険としてお前を鍛えたが……必要なかったようだな」
「……何を」
言っているのだろう父は……。
「聞こえなかったか?お前はもう必要ない」
「な……ぜ」
これは夢だろうか。
夢だとしたら最悪な夢……。
「お前は女だろう?風藍」
頭の中でこだますこの声は……現実以外の何ものでもなかった。
生活は一変して家事の賃仕事をさせられるようになった。皿を洗っている途中ふと見た指は剣の持ちすぎで醜く歪んでいた。
それを見る度に込み上げる涙を流すまいと……
唇を噛み締めては
見えない道を
手探りで捜していた。
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