ひとり歩き

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 朝の陽が射す車内にはゆったりとした空気が流れている。  毎朝決まった時間のバスに乗っていると、乗客もだいたいはおなじ顔触れになっていくものだ。  結女乃(ゆめの)はいつものように乗り合わせた女性に微笑み返した。こんなふうに特別、会話が広がるわけでもないけれど、なんとなく居心地の良い空間ではある。  バス全体がまるでひとつの目的地に向かって進む、共同体みたいだな、そんなことを考えながら、窓の外へと視線を戻す。  いつもと違うのは結女乃の目的地だ。  今日からキャンパスライフが始まる。    あたたかな陽射しに照らされて、うす紅いろの花びらが、嬉しそうに舞っている――。   『次は終点、○○駅です』    心地よいまどろみを遮り、運転手のアナウンスが一瞬のうちに結女乃を深い海の底から現実へと引き戻した。 「すみません、降ります!」  張り上げた声に車内の視線が結女乃へと注がれた。気恥ずかしさを隠しながら、降車口へと向かう。   「いってらっしゃい」  そう言って運転手がにっこり笑った。  一瞬、結女乃はまるで、小さな子供が幼稚園の門の前で母親と別れるときのような不安に駆られた。 扉の向こうでは朝の陽に反射して、停留所の看板がきらきらと光っている。  行かなければ――。  「ありがとうございます!」  結女乃は彼に微笑み返すと、ステップを勢いよく降り、駅へと駆け出した。
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