大人(ささえ)との、別れ

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その翌日祐介は、たった一人の家族である母と、別れた。 母は一日泣いていたのであろうか、目が真っ赤になっている。 「死ぬんじゃないよ!!」 ここら一帯の団地の大人達を乗せたバスの窓を開け、母が叫んだ。悲しみを押し殺しながら、いつもの元気な母が出す、精一杯の大声で…。 「…絶対生き残るから」 祐介は、呟くように言った。 「祐介!聞こえないよ!」 「俺、絶対死なないから!絶対生き残るから!」 母は祐介の声を聞き、バスの窓を閉めた。祐介が小さい頃から、まるで息子や孫のように接してくれた、近所のおばさんも、頑固なおじいちゃんも、泣いていた。 ついに、バスが動き始めた。どうしようもない不安が祐介を襲った。大きな心の支えを失ったのだと…。 12月16日AM10:36全県民(対象者を除く)の県外脱出完了。
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