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そして、午後になり、すももは伊織と出掛けた。
「……」
「この街は大きいですね」
「……」
「活気があって、実にいいです」
「……」
「すももさん、もう少し楽しそうにしたらどうですか?」
「伊織君に、文句を付けられたくはないです」
口調が移ってしまったかのように、すももは言う。
「ぷッ……あはは」
その様子を見て、伊織は吹き出した上に、『笑った』。いつもの微笑みでもなく、心から『笑った』のだ。
「し、失礼しました……。全くあなたという人は……」
「やっと本気で笑ったね」
「あ……」
その時初めて伊織は悟った。
彼女がわざと自分を笑わそうとしてくれていた事を。
あなたはどうして、昨日あんなヒドい事をした僕に、こんなにも優しいのですか?
あなたはどうしてそんなにも広い心を持っているのですか?
僕があなたの婚約者だからですか?
わからないーー。
「じゃ、行こうか。案内すればいいんだよね」
無邪気に微笑んだすももは、伊織の脅威になるーー。
何でも見透かしたような彼女が、伊織には恐ろしかった。
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