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「ん~」
少し考えた後、すももは少し背伸びをしながら伊織の頬にキスをーー。
「ーー」
いきなり、伊織の顔の向きが変わり、頬にするはずだったキスが唇になってしまった。
「い、伊織君!!」
「ごちそうさまです。すももさん、男の人を信用するのは危ないですよ?」
伊織はクスッと笑った。
まるで先ほど、脅威だと思っていた相手を負かしたような……そんな笑みだった。
「僕はあなたと婚約します。これは絶対です」
「お父さんが……決めたから?」
「はい」
「ーーッ」
平然と頷いた伊織に、すももは傷ついたような声を出す。
「伊織君なんて知らないッ……!」
すももはその場から逃げるように、家を飛び出した。
もちろん、行く宛もない。
杏の家に転がり込もうか考えて、迷惑が掛かるからとその考えを打ち消した。
「……」
1人寂しく、昼間の街を歩く。
他にどうする事もできないから。
だからただ歩く。
「ーー」
唐突に、伊織の先ほどの言葉を思い出し、立ち止まる。
キスされた事は許せないけれど、それよりも、伊織の言葉が心に刺さる。
もしも伊織がただの転校生であったなら、すももに対して婚約するなど、という感情を抱く事はなかったという事だろう。
「だったら……」
だったら、邪魔をしてほしくなどなかった。
氷室とあんな形のまま、冬休みに入ってしまった。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
「ヤだよ……」
「姫野……!」
驚いて、顔を上げた。
「氷室……君ッ!」
すももは氷室に抱きついた。
「どうした?姫野」
状況がまだ理解できていない氷室は、すももの頭を撫でて、問う。
「もう家には帰れないよ……」
伊織と、どんな顔をして会えばいいかわからない。
もしかしたら、伊織が自分の好きな人を両親に知らせているかもしれない。
それが怖かった。
「何があった?」
「……」
すももは氷室に言っていいのかどうか迷った。
「言ってみろ」
「……」
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