12月24日

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ウインクした氷室の母親にすももは頭を下げた。 「ありがとうございます」 「私は何もしてないわよ。さ、杏ちゃん、伊織君、行きましょう」 杏と伊織と氷室の母親は病院を後にした。 「……」 すももは黙って病室に入る。 「……氷室君」 呼びかけても、返事は返ってこない。 自分が彼を引き止めて、あんな相談したからーーだから氷室はこんな状態になってしまった。 引き止めなければーー氷室は……。 「……」 ピッ ピッ 氷室の心拍数と同じテンポで脈打つ心拍測定器の音が、やけにおおきく聞こえた。 「氷室……君」 それ以外何も言う事ができない自分が歯がゆかった。 「……」 心臓が止まってしまうのではないかと思うほど、氷室の心拍数は遅く感じられた。 「ごめん……氷室君……」 すももは氷室の手を握った。 「……」 何時間経っただろうーー。 いや、まだそんなに時間が経っていないのかもしれない。 時計を見るとまだ1時だった。 この世界では、時計など、全く意味のないものに感じた。 「意味のない……か」 氷室の心拍数が、この世界の時間であるようなーーそんな感覚だった。 「……」 彼は、自分を恨んでいるだろう。 あの時自分が彼を引き止めなければーー今でも悔やむ。 悔やんでも、悔やんでも、氷室は戻っては来ない。 「すももちゃん」 「あ……」 氷室の母親がーー部屋に戻ってきていた。 「少し、2人きりで話さない?」 「はい……」 すももは氷室の手をゆっくりと離し、部屋を出ていく氷室の母親に続いた。 「……」 彼女が「2人きりになれる場所」として選んだのは、屋上だった。 「ちょっと寒いけど、我慢してね。2人きりになれる場所って言えばここくらいだから」 「あの……杏ちゃんと伊織君は……」 「あの2人は家に送って来たわ。はい、これ」 氷室の母親がすももに渡したのは、コンビニで売っているパンだった。 「でも……」 「2人がね、食事中あまりにもあなたの事心配するから、思わず買ってきちゃった」 「でも……」 「買ってきたのは私の勝手。だから、捨ててもいいのよ?でも、とりあえず受け取ってちょうだい」 「はい……」 すももはコンビニの袋を受け取った。 「あの……謝らなくちゃ……いけないことがあるんです」
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