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氷室君は優しい。
それだけが今のすももの中で確かな事。
「じゃあ、また明日学校でね」
「ああ」
氷室はそのまま帰っていってしまった。
「ただいま」
そう言って家に入る。
「お帰りなさい、すもも」
さすが、すももの母親と言ったところか、すももと同じくおっとりしている。
「今年のサンタ衣装、もう用意してあるわよ」
帰っていきなりその話題かと、すももは頬を膨らませる。
「今年のは特別可愛いわよ」
「え?ホントに?」
現金なすももは、すぐに母親に飛びつく。
「今年はママの手作り」
「やったぁ。何年ぶりだろ、お母さんの作ってくれたサンタの服」
すももは嬉しくなった。
これでは誰が見てもクリスマスが好きな女の子である。
「すもも、帰ったのかい?」
今度は父親の登場だ。
すももの父は、見たまんまのサンタだ。
白い長いヒゲをしている。
髪の色も白い。
サンタ一族の男子は、生まれた時から髪の色が白い。だから、生えてくるヒゲも当然白い、というわけだ。
「今年は、お前の婚約者も一緒にプレゼントを配る事になっている。婚約者が18歳になったら式を挙げる」
すももの婚約者は、すももと同じ歳なので、まだ婚約できない。だからすももは、高校卒業するまでに思い出を作っておかなければならない。
「むぅ」
すももは再び頬を膨らます。
「明日の朝、彼がこちらに来るそうだ」
「……」
「そして、すももの学校に通うことになる」
「!」
学校は困る。
学校には氷室がいるのだから。
もし、彼の事が好きだと知れたら、父は恐らく無理やりにでも、すももの想いを断ち切らせるだろう。
「……」
「今頃は恐らく飛行機の中だ」
「……」
すももは考えた。
どうすればいいのかを。
そして答えは出なかった。
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