162人が本棚に入れています
本棚に追加
「転校生の、車谷伊織君です。車谷君は一族の事情によって、この学校に転校してきました」
「車谷伊織です。僕は、姫野すももさんと婚約するためにこの街へ来ました」
そう言って微笑んだ少年は、微笑んでいながらも、その言葉が本気であることを示していた。
「席は、氷室君の隣に座ってください」
ザワザワと教室内がざわめく。
「車谷伊織です。よろしく」
「氷室煉だ」
短く挨拶を交わした後、席に着く。
気まずい空気が流れた1時間目が終わり、休み時間になる。
もちろん、生徒の興味は、伊織とすももに注がれた。
「すももちゃんと婚約者ってホント?」
「ホントです。昔、2人の親がそう決めましたから」
伊織は誇らしげに微笑む。その光景を面白くないと思っている奴がいた。氷室煉である。
氷室は黙って教室を出ていく。
いつもと変わらない、無表情であったが、すももにはわかった。
「氷室君!」
慌てて追いかけようとするが、伊織がそれを止めた。
「あの人が、あなたの愛する人なのですね」
「ーー」
「僕が調べていないとでも思いましたか?」
「氷室煉。成績優秀、運動神経抜群……。僕は彼に負ける気はありません。彼に僕が劣っているはずがない。それを証明して差し上げます」
「違う……」
違う。
自分が氷室煉の事を好きなのは、成績優秀だからでも、運動神経がいいからでもない。
もっと根源的な何かーー。
でもそれが何かわからない。
「氷室君は……違うッ」
「すももッ!!」
すももは教室を飛び出した。
「私は、他人の気持ちを全く考えないような奴に、すももを渡すつもりはない」
「あなたが、永峰杏さんですね。すももさんのご友人の」
「すももの事、どこまで知ってるの?」
「全て、ですね。だから氷室煉の事がわかった」
杏は、伊織の微笑を怖いとさえ感じ、教室を後にした。
勿論、すももを追いかけるのである。
最初のコメントを投稿しよう!