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「すももッ」
「杏……ちゃん」
すももが涙を流していた。
それは、杏がすももに出会って初めて見た涙だった。
「氷室君……見つけられなかった」
「どうして氷室を追いかけようとしたの?教室から出ていくなんて、いつもの事じゃない」
「氷室君……怒ってた……。なんか、わかんないけど、怒ってるように見えたがら……」
「……すもも」
彼女は他人をよく見ている。
他人の気持ちを察するのが得意で、それで何度も彼女に助けられた。
だからすももは、誰も気づかない、ポーカーフェイスが思っている事でも、普段まわりの輪に入ってこない子が思っている事でも、異常が起こったらすぐにわかる。
「すもも、伊織君の事、どう思う?」
「……わかんない。私にとっては初めて会ったのと同じだから」
「じゃあ、伊織君と氷室、どっちが好き?」
「氷室君」
迷いのない、一言だった。
「だったら、婚約者だとか関係ないね」
「え?」
「氷室に、告白して」
「ーー」
急にすももの顔が赤くなり、それを杏は可愛いと思う。
いつもの事だ。
「告白って……どうやって?」
「まさか、ずっと氷室からの告白を待ってるつもり?」
「う~ん」
「時間ないんでしょ?」
「うん……」
「だったら伝えようよ。すももには私がいるから」
「杏ちゃん……」
「伊織君の思い通りにならないようにしよう」
杏が、他人に「さん」や「君」を付けるのは、その人を信用していない証。
別に尊敬しているわけではない。
「うんッ」
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