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「吹鴫雑貨屋へようこそ!」
少女の声に、ハッとなった。枕だ。
目の前に枕がいる。
茶色に統一された室内はどこかアンティークショップのような雰囲気があった。
なんで、こんなところにいるんだ。
「僕、風紀室に行ったんじゃなかったっけ」
おかしい。確かそのはずだ。
「いいえ。貴方は自分の意思でここに来たわ」
別に雑貨に用はない。それになんだ、ふしぎ雑貨屋って。
ドアに向き直り躊躇いもなくドアノブをひくと、驚いたことに、普通は何かが見えるものだが先が見えない闇のかたまりだ。
一歩でも踏み出せば吸い込まれてしまいそうだった。
「……どういう仕組みだよ」
風紀委員長として、仕事も結構あるんだ。期日も迫っているしこんなところで道草を食っている暇はない。
「帰りたいと思えば、帰れますよ」
枕から人間がひょこりと小さな顔をのぞかせた。なんだ、ガキか。
む、と突然顔色が変わる。
「私ガキじゃない! ……まあいいわ。私、ガキじゃなくて大人だから怒らないであげる」
ガキだとは思ったが、口には出していないはずだ。もしかして、うっかり口に出してしまったのか?
僕が驚いているのを見て満足そうに笑った。
「あなた、恋をしてるわね?」
恋。
そう聞いてひとりの少女が脳裏をかすめる。
「へえ、かわいいコ! 同級生かあ……ふうん」
さすがに慌てた。
まるで実際に今見たかのように話をしている。
これ以上、目の前の女の子に言い当てられたくなかったから、とっさに自分の手で彼女の口をふさいだ。
少女は面白そうに笑うと、口を押さえている手をつねった。
「レディに失礼よっ。……そんなアナタにお薦めなのはこの枕なんだけど…」
その言葉をさかいに、少女はさっきまで抱えていた枕の宣伝を始めた。
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