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「僕…、由良さんの所に来るまで普段外なんて出た事ありませんでしたし、雪なんて触った事もありませんでしたから。」
そうだ…。
儚は売られ買われてを繰り返されてきた性奴隷だった。
だから外なんて出してもらえたはずもない。
手の温度でじわじわと溶けて、もうすっかり水になってしまった手の上の雪から俺に視線を移した儚の顔は、"もう昔の事ですよ"とでも言いたそうなくらいの笑顔でいっぱいだ。
俺は儚の前髪を掻き上げてその額に口付けた。
「ゆ、由良さん…っ!?」
儚は朝から顔を真っ赤にして俺を見上げる。
さっき掻き上げた儚の前髪を手櫛で整えてやった。
「…あ、もう8時半か。そろそろ準備しないとな。」
「今日9時からお仕事ですもんね。朝ご飯は…食べる時間ないですね…。」
"僕がもっと早く起きてれば朝食準備出来たのに…"なんて、朝から驚いたり顔を赤くしたり落ち込んだりと喜怒哀楽の激しい儚に"儚のせいじゃない"って諭すように言うと、幼い子供のようにキラキラと顔を輝かせた。
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