一日目 ~出会い~

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「うわっ! な……なんだよこいつ、気持ち悪い……」  男が、ものすごいスピードで近付いてくる渡邉に向かって言った。  それを聞いた聖はスクッと立ち上がり、男の手を振りほどき、その男の足を思いっきり蹴った。 「いってーっ! なにしやがるこの――」 と言いながら男が手を振り上げたその時 「おやめくださいませ」  渡邉がその手を右手で掴んだ。  左手は聖を庇うように前に出し、彼女を自分の背中に回した。 「なんだよ、お――痛っ! 手離せよ……くっ……離せったら!」  男はもがくが、渡邉はびくともしない。 「離しましたら、素直にお帰りいただけますか?」 「か……帰る……帰るから……頼むから離してくれ!」 「こちらの女性に謝罪していただけますか?」  渡邉は手の力を緩めず、しかし緩やかな口調で言った。 「わ……分かった! 悪かった!」 「悪かった――は謝罪ではございません。単なる感想でございます」 「くっ……すいませんでした……」  渡邉はため息をついた。 「すいませんでした――は誤りでございます。それではなにを吸わなかったのか、ということになります。正確には『すみませんでした』……これが正しい謝罪にございます」 「す……すみませんでした……」 「聖様、いかがなさいますか?」 「もういいよ、なんか……すごい痛そうだし」  そうですかと言いながら、渡邉はようやく手を離した。  掴まれていた男は、手首を押さえながら逃げるようにして走り去った。  渡邉は振り返り 「大丈夫ですか?」 と、聖に聞いた。 「……大丈夫じゃない」 「おや、それは! 救急車をお呼びいたしましょうか、それとも……」  それを聞いた途端、聖は渡邉の背中に回り、よいしょと言ってその背中によじ登って 「おんぶー!」 と叫び、足をバタバタさせた。 「はいはい、それでは参りましょう」  渡邉が歩き出そうとすると 「はい、は一回ですよー!」 と聖に注意された。 「申し訳ございません。そのとおりでございます」 「あはは。渡邉っちは素直でございますねー」 「あ……はい、よく馬鹿正直と言われます……」  渡邉はどことなく悲しそうだった。
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