一日目 ~出会い~

12/12
前へ
/55ページ
次へ
 そして、とぼとぼと歩き出した。  渡邉は、聖が何か言ってくれるかと待っていたが、彼女は珍しく黙ったままだった。  しばらく無言のまま歩いていたが、渡邉の住む官舎が再び見え始めたとき、彼は口を開いた。 「聖様、先ほどはすぐに追い掛けなくてすみませんでした。そのせいで、あのように怖い思いをさせてしまいまして……本当に申し訳ありませんでした」 「…………」  聖からの返事はなく、渡邉は不安になった。 「……もしかして、怒ってらっしゃるのですか?」  渡邉の問いかけにも返事はない。 「あの……」  渡邉は立ち止まり、首を回して背中を見ようとした。  そうして体をねじった瞬間、背中の聖が後ろに仰け反った。 「うわっ!?」  渡邉は慌てて腕に力を入れて前屈みになり、聖を背中に押し付けた。 「あ……危うく落ちるところでございました……聖様、もしやお具合でも……」  渡邉は言いかけて、すぐに黙った。 「……くぅ……すぅ……」  どうやら聖は渡邉の背中でグッスリと眠っているようだ。 「おや、まぁ……なんとも」  渡邉は笑いながら暫く歩き、ようやく自分の部屋の鍵を開けた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2330人が本棚に入れています
本棚に追加