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そして、とぼとぼと歩き出した。
渡邉は、聖が何か言ってくれるかと待っていたが、彼女は珍しく黙ったままだった。
しばらく無言のまま歩いていたが、渡邉の住む官舎が再び見え始めたとき、彼は口を開いた。
「聖様、先ほどはすぐに追い掛けなくてすみませんでした。そのせいで、あのように怖い思いをさせてしまいまして……本当に申し訳ありませんでした」
「…………」
聖からの返事はなく、渡邉は不安になった。
「……もしかして、怒ってらっしゃるのですか?」
渡邉の問いかけにも返事はない。
「あの……」
渡邉は立ち止まり、首を回して背中を見ようとした。
そうして体をねじった瞬間、背中の聖が後ろに仰け反った。
「うわっ!?」
渡邉は慌てて腕に力を入れて前屈みになり、聖を背中に押し付けた。
「あ……危うく落ちるところでございました……聖様、もしやお具合でも……」
渡邉は言いかけて、すぐに黙った。
「……くぅ……すぅ……」
どうやら聖は渡邉の背中でグッスリと眠っているようだ。
「おや、まぁ……なんとも」
渡邉は笑いながら暫く歩き、ようやく自分の部屋の鍵を開けた。
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