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ローライズのデニムパンツをはき、タンクトップの上にパーカー羽織ると妃菜はもう一度、鏡の前に立った。
胸まで流れる茶色まじりの髪に、健康色な肌。一番メイクに力を入れた目は、ぱっちりとして、元々いい妃菜の顔だちをさらに華やかに際立たせる。
今日は時間に余裕があったので桜色のグロスもつけてみた。
スラリとしたウエストからは少しだけヘソも見えてる。
「よしっ!カンペキ💓」
妃菜はニィ〰と鏡に映る自分に笑ってみせた。
あれから6年…20歳になった妃菜は大きく変わっていた。全く興味がなかったオシャレにも目覚め、ダイエットにも挑戦し、今では振り返らない人がいないぐらい、美しくなった。
変わったのは外見だけじゃなく私生活も大きな前進をしていた。
19歳になったと同時に、親元から離れ、遠く離れたこの蛍火市で一人暮らしを始めたのだ。
1DKの小さなアパートだが一人で住むには充分な広さで家賃も手ごろ。
また妃菜のベランダから見える景色は最高なものだった。太陽の光でキラキラと光る街並み、その向こうには青々とした海が果てしなく広がっていて……
アパートの外装も可愛くクリーム色に塗られていて、妃菜は自分には贅沢すぎると思うぐらい満足感でいっぱいだった。
「出発します!」
このセリフは毎日の習慣だ。妃菜は銀色の折り畳み自転車にまたがると、軽やかに坂を下っていく。
妃菜の住むアパートは高台にあるため、この急な長い坂を降りなければ、コンビニさえない。逆に言えば、この坂を上らなければ家には帰れず………
あとで聞いた話だが地元の人々はみな、この坂を『鬼心の坂』と呼んでいるそうだ。途中、近所の人、何人かとすれ違う。
みな、妃菜を見ると¨おはよう¨とか¨今日はいい天気ね¨などと、笑顔で挨拶をしてくれた。美人で愛想もいい妃菜はすぐに地元の人とも打ち解け、たまに「これ、作りすぎちゃったの。よかったら妃菜ちゃん食べて」なんていう、恩恵にもちゃっかり恵まれちゃったりしている。
妃菜は律儀に一人、一人に挨拶をし終わると再び、前を向いた。
スカイブルーに染まった空が今日はやたらと低く感じる。遠くの海では貨物船も確認できた。何もかも、今日はいつもより鮮やかに見え、妃菜は鳥肌が立つくらい心が踊った。
「今日はな〰んかいい事ありそ〰〰〰💓」
妃菜の乗る自転車は今にも飛んで行きそうなスピードで勢いよく街並み目指し、下っていった。
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