第一章 「初夏」

2/3
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
なんで… どうして… ここまできたのがアホみたいじゃないか…   悲願の涙を流しながら彼は後悔の念に駆られていた…   --------------     梅雨明けの晴れた昼下がり 彼の話に耳を傾け相づちをうちながら数学の勉強するという器用な事をやってのける彼女   彼はその器用な動作に関心する反面 自分の話に集中していないのではないかと思うのであった 否、殆ど目はノートと教材を行き来している   だが彼は彼女に小一時間以上も待たされるつもりはない、そして半ば本気で彼女を睨みながら口を尖らせ更に極力迫力のある顔で何かを言った。 その刹那 「終わったよー!」 大声張り上げ、元気よく彼に向けて言い放った。 彼は拍子抜けした顔で数秒固まってしまった。 「…どうしたの?」 彼女は不思議そうに彼の顔を覗き込み、彼の言葉をじっと待っているようだった。   「ん?…あぁなんでもないよ」 彼は死ぬ程文句を言ってやろうと思っていたが彼女の顔を見ていたら馬鹿らしくなってきて口を噤んだ   「ふ~ん…そっかぁ…」 彼女は少し彼を観察し、自分が長いこと勉強に励みすぎて彼の相手をお粗末にしたのを思い出したのだ。その瞬間彼女の態度は急変し悪戯をしてその悪戯がバレて咎められている子供のそれと酷似している少し強張った顔をしていた。   「そんな顔すんなよ、終わったんなら帰ろーぜっ」 彼は机に置いてあった彼女の勉強道具一式をバッグに詰め彼女の手を引き颯爽と教室を出て行くのであった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!