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序章・2 迷走
幼い頃は、漫画家になりたかった。
毎週読んでいたコミック誌の中にお気に入りの作品があった。
その作者に憧れて、漫画を描きだしたのがきっかけだ。
それはもう毎日の様にペンを握った。
最初は落書きにしか見えなかったけど、本人としては大満足だった。
「自分は天才だ」「漫画家になれないわけがない」と勝手に思い込んでいた。
描けば描くほど絵がうまくなってくるのがまた嬉しくて仕方がなかった。
小学校に入る頃には、もう既に周りから絵の技術を賞賛されていた。
もちろん、「この年齢にしてはうまい」ってレベルの話だけどね。
だけど、俺が絵を描く理由としてはそれで充分だったのだ。
いつからだろうね、俺が他人から褒められるために漫画を描きだしたのは。
いつから俺は、漫画に対する情熱を失いかけていたのだろう。
あんなに好きだったのに。あんなに叶えたかった夢なのに。
どうして、あんなに簡単に諦めてしまったのだろう。
答え…所詮その程度の夢だったから。
やっぱり、好きなだけじゃ続かないのかな。
いや、そもそも好きだったのかな。それすらもわからなくなってきちゃった。
だって、面倒なのだもの。
人物を描くのは好きだったけど、背景とか緻密な作業はどうしても好きになれなかった。
根本的に細かい作業は苦手なんだよね、俺。
それでも、高校一年生までは描き続けていた。
惰性と言えばそれまでだけど、幼稚園の頃から続けていたものをそう簡単にやめられなかった。
だけどもうその頃には、俺の漫画に対する情熱なんて一欠片も残っていなかった。
一番楽しかった頃は毎日のように机に向かっていたけど、それが二日に一度、三日に一度となっていたことに自分でも気づいていた。
そうなってしまった理由としては、やっぱり他の世界をいっぱい見てしまったことが一番大きいかな。
中学時代は部活に明け暮れたし、高校に入ったら遊び、服、女、女、女ってね。仕方がなかったのさ。
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