ビーラーゲリラ

3/12
前へ
/95ページ
次へ
後方では‥ 6機のAT〈スタンディングタートル〉が甲羅に身を縮めた亀のように、降着姿勢をとって待機していた。 ATとは― 《全高4mほどの汎用2足歩行兵器 Armored Trooper(装甲騎兵)の略称である。 2つの星系が戦火を交え始めて80年も過ぎた頃 両陣営共に疲弊した戦局を打開する為に、戦略の転換を余儀なくされる それは資源確保の為、惑星制圧が目的の局地戦への移行であった 当初は都市制圧の為の対人兵器であったが、あらゆる状況下に対応できる人型兵器ATはいつしか戦場の主役となり、その運用法も多岐にわたるようになる》 スタンディングタートルは、高出力、重装甲だが機動力がやや劣るヘビー級ATで、愛称と同じように太めのシルエットをしていた。 そこにいるATは、どれもオリーブ色の塗装を施されていたが、一機だけ赤褐色の塗装の“亀”があった。 「了解した」  そのコクピットの中で、通信を終えた隊長らしき男が他の“亀”に向って通信を開く。 「いくぞ」  少し緊張感を含んだ太い静かな声であった。 隊長の名はハヌマンといった。 ゴツゴツとした大きな鼻と頬骨が特徴的で縮れたアゴ髭をたくわえていた。 歳は40を越えた辺りだろうか。 日焼けしているのか、精悍な顔立ちで、薄暗いコクピットの中では眼だけが爛々と輝いて見えた。 額に掛けていたゴーグルを付けると操縦桿をゆっくりと引く。 6機の“亀”が次々と立ち上がり、小さな木立を薙ぎ倒しながら進撃を開始した。 誰も彼もが極度に緊張しているのか、一言も発しなかった。 一番先頭をいくハヌマン隊長は通信機のスイッチを叩いた。 「チュオ、大丈夫か?」 『は、はい。大丈夫です!』 チュオは、一番年下の隊員だった。 「よし‥ いよいよ我々の初陣だ。 が、恐れることはない。 今こそ、奴らに鉄槌を下す時だ。 我々にはバン・ヌーの神がついている。 怯まずに続け!」 『了ォ解!!!』 各機から一斉に応答があった。 それが合図だったかのように前方の暗闇に赤い火柱が上がった。 それは攻撃目標に仕掛けられた爆薬が放つ閃光だった。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加