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舞台に立つ直前、葉山は必ず眼鏡を外す。
だからって、マンガみたいに突然美少女になるとか、性格が豹変するなんてことはもちろんない。
邪魔だからとか役作りの為だとか、理由はたいしたことじゃないんだろう。
ただその瞬間、確かに何かが変わる。
視界はぼやけるだろうに、彼女の動きや視線からは一切の迷いが消える。
普段のどことなくオドオドした様子がキレイサッパリなくなるのだ。
あれは多分、日常にフィルターをかけることによって、外界と自分の心の境を曖昧にぼやかしているんだ。
だから、普段の生活では上手く出せない心の奥底の喜怒哀楽を、あんなにもシンプルに表現できるんだと思う。
それにしても。
「あの迫力、どっから出てくるんだろうな」
「そりゃアンタ、“愛の力”に決まってんじゃない」
「えぇっ?!」
つい気色ばんでしまった僕を見て、真由美がニヤリと笑った。
「本人に聞いてみればいいじゃない。好きなんじゃないの?ヒロのこと」
バイバイっと手を振って真由美が去っていく。
「そんなこと言われても…」
他人に指摘されて初めて気付く。
認めてしまおう。
これは“恋”だ。
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