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本当に欲しいものなんて、
たったひとつしかないのに。
なぜそれだけが
手に入らないんだろう。
バス停の灯りの下、白い息とともに零れたつぶやきが、僕の目の前で夜空に溶けて消えた。
多分それは彼女の“ひとりごと”だったのだから、聞こえないふりをして通り過ぎてもよかった。
12月の空はすっかり暮れ、耳鳴りがしそうなほど空気は冷えて、
彼女の乗るバスはまだずいぶん遠くを走っているらしく、僕にそのバスを待つ必要など全くない。
まして僕と彼女は、ただのクラスメイトに過ぎず、彼女が本当に欲しがっているものを、きっと今の僕は持ち合わせていない。
それなのに、つい彼女の隣に腰をおろしてしまった理由。
剥き出しの耳たぶが寒そうで、髪を短く切り直したばかりの小さな頭を抱き締めてしまいたい衝動に駆られながら、
僕はそれを解り始めてしまっている。
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