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先月、津田たちの演劇部は県大会を突破した。
お金もない、設備もない、そんな公立高校のたった6名の弱小部にとって、それは創部以来初のことらしい。
津田は「運が良かったんだ。まぐれかもしれないな」と笑っていたが、「とりあえず観てくれよ」と言う声は自信満々という感じだった。
薄曇りの午後、駐車場の片隅、チョークで囲われただけのアスファルトの舞台。
1年のスタッフの「いきますっ!3、2、1…ハイっ!」という合図で、見えない幕が上がった。
それから約一時間。
屋外なので照明器材はない。
旧型のラジカセから流れる音響は、寒風にさらわれて途切れ途切れにしか聞こえない。
それでも。
目が離せなかった。
人間の声がこんなに熱いなんて知らなかった。
見知った顔の奴らが別人に見えるなんて。
これはまぐれなんかじゃない。
大げさな言い方になるけど、本気とか情熱って、こういうものなのかもしれないって、生まれて初めて思った。
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