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ピン・スポット。
それは客席の一番後ろ、舞台から最も遠い場所から、一直線の光を放つライトだ。
かなり大きいが、行楽地の展望台にある双眼望遠鏡のような動きが可能で、狙った対象をどこまでも追い掛けて射抜くことができる。
扱いは難しくない。
しかし、舞台で動き回る役者とのタイミングがズレると非常にみっともないので練習が必要だ。
稽古は駐車場と講堂で毎日交互に行われた。
わざわざ屋外で練習するのは、本番の舞台の広さをキャストの身体にたたき込む為。
講堂の舞台での練習はスタッフ…というか、主に僕の為だった。
ピンスポの出番はいくつかある。
しかしやはり最も重要なのはラストシーン。
稽古で初めてそのシーンに自分で照明を当てた時は鳥肌が立った。
真っ暗な舞台の中央に差す一条の光。
その中にたたずむ人影。
寒風吹き荒ぶ駐車場の舞台でさえ眩しく見えた主人公が、シャンパンゴールドの光の中で溶けてしまいそうに輝いていた。
あんな華奢な身体のどこに、あれほどのパワーが隠れているんだろう。
葉山比呂。
数日前まで、言葉も交わしたことのなかったクラスメイトに、そのとき僕は心を奪われた。
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