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SF映画に登場する気密性に優れた戦闘服のような白いスーツを身にまとってうつ伏せに倒れていた。体は健吾よりひと周りほど小さい。そこら辺に落ちていた比較的芯の硬めな木枝を選んで拾うと、それの先端で首に当たる部位をつついてみる。
「う、……いたい」
「っ!」
頭部に被っているヘルメットと思われるものからくぐもった声が漏れた。「いたい」とは、あの「痛い」のことなのか?
「み……ず、お、願い、水を、」
不思議と直感する。
あ。この人、地球人だ。
「あ、これ水」
「ありがとう、」
ミネラルウォーターの注がれたコップを健吾の手からぶん取って物凄い勢いで飲み干す。
結論から言うと、絶世の美少女だった。
ヘルメットの下から現れた女神像のような芸術性をもつ顔立ちに、健吾は思わず魅入ってしまう。
青みがかった銀色をした大きな瞳とそれに相反する大和撫子を思わせる漆黒の長髪。カラーコンタクトを入れているのだろうと考えるのが普通だが、彼女の瞳からはそういった胡散臭さが全く感じられない。
凝り固まった汗と髪の乱れが女性としての清潔感を著しく欠いているにも関わらず、それすらもワイルドな魅力と錯覚しまうほどに彼女の美貌は際立っていた。
つい見惚れていた健吾だが、それどころではない。見るからに何かの事件に巻き込まれた感まる出しのこの娘を、よく状況を理解しないままに肩を貸して家に連れ帰ってしまったのである。家族の誰かにバレないうちに何とかしなくては──。
「うぃーす! 昨日借りた辞書返しに、」
「あ、」
「え、」
「……」
試験勉強の一夜漬けが祟ったのか、おそらく明美の思考回路はこのような方向へ。
【設問】
彼女いない歴イコール年齢のモテない男、相原健吾一九歳。彼の部屋のベッドに髪の乱れた美少女が座っている。如何な紆余曲折を経てこの驚嘆すべき状況が完成したのか、その理由を以下の二択より選んで答えよ。
A)初めて付き合うことになった彼女が家に遊びに来た。
B)気に入った少女の弱みを握ることに成功し、それをネタに揺すりをかけて部屋に連れ込んだ。
「Bぃぃぃーっ!」
Aの選択肢をコンマ数秒で排除し、明美は甲子園投手顔負けの豪快なフォームで振りかぶると和英辞書を健吾の顔面に向かって投擲する。
「Bって何がっ? ──ふぎゃぶ!」
見事なクリーンヒットだった。
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