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「何だかよく分からない状況なのは確かだけど、この娘どうするのケン」
「そんなこと言われても──て、お前はまず俺に謝れっ。痛々しく流血している俺のこの顔面に謝れ!」
まるで何ごともなかったかのように会話を進めようとする妹を悔い改めさせるべく声を張り上げたその時、謎の少女が何の前触れもなく立ち上がった。
「迷惑を掛けているようだから出て行くわ」
待った、と明美がその腕を掴んで引き止める。
「当てはあるの?」
「分からない。まずここがどこなのか正確に把握しないと。見たところ日本なのは間違いないようだけど……」
彼女はやはり人類が開発した新兵器のテストパイロットなのか。健吾は裏山に放置プレイ中の巨大な物体に思いを馳せる。
「とりあえず今晩は泊まっていきなって。訳ありの迷子さんみたいだし、別に何も聞かないから。住所も明日詳しく教えるよ」
「……いいの?」
「いいっていいって。親にバレないようにシャワーも一緒に浴びちゃうからさ」
「あの、第一発見者である俺の意見は?」
放置プレイを受けているのは実は健吾の方だった。
「うるさい。ケンはリビングから彼女の食べるもの何か持ってきて」
「恩に着るわ二人とも」
「私は明美、こっちは健吾。一応兄妹」
「一応ってお前……」
何とひどい云われようか。対抗心につられて、妙な独占欲が沸いて出る。少女をうちへ連れてきたのは他の誰でもない自分なのだ。会話のペースを明美に掌握されてしまう前に、自分もこの少女からいろいろと情報を引き出してやらねばカッコがつかない。まずは名前と年齢辺りからだろう。
「あなたの名前は?」
「ユイ」
「おいくつ?」
「コラッ、失礼でしょーが。女の子に向かって年齢と体重を訊ねるのはご法度だよ!」
「何だよ、まだ加齢を気にするような歳でもないだろ」
健吾と明美が特撮ヒーローみたいな構えを取って言い争っていると、ユイと名乗った少女が普通に口を開いた。
「一六」
「何だ私とタメじゃん! 仲良くしようよー」
浮き足立つ心を隠し切れない喧騒の中で、激動の一夜が更けていく。果たして健吾は、焦がれていた「特別」になれたのだろうか。
筆舌に尽くし難い未知を我が日常へ運び込んできた少女。彼女は一体何者なのか。興奮気味で今夜は一睡も出来ないであろうと踏んでいたが、疲れた身体は思いのほか早く健吾を深い眠りの内へといざなうのだった。
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