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「落ち着いた?」
「少し。まだ頭の整理はついていないけれど」
相原邸一階のリビング。小首を傾げて顔をのぞき込んでくる明美から、ユイはモーニングコーヒーを手渡される。
「もう一度確認するけど、ずっと地下で暮らしてきたとか、そんなんじゃないんだよね?」
質問に対してユイは、ゆっくりとしかし大きく頷いて、
「……お願いがあるんだけど」
神妙な面持ちでこう訊き返してくる。
「少し力仕事を手伝ってほしいの。もちろん無理にとは言わないわ」
──
────
──────……
「ちょっと、いったい何なのこれ」
明美が頬をつねっている。どうやら現実らしい。裏山の林の、中ほど。昨晩ははっきりと確認出来なかったあの物体の全容が今ここに明らかになった。
巨大な人型ロボットが、無造作に横たわっている。
そんなまさか、と万人が思うだろう。でもこれ以外に説明のしようがない。プラモデルやアクションフィギュアをプロモーションするイベントで、大きなロボットの模型が飾られているのを幾度か見たことがある。
だがしかし、今ここにあるこれは。大きさも、質感も、重量感も、そして何より存在感が、玩具のそれとは全くの別次元であり、見紛うことなき実体として健吾の視界を掌握している。
「ねぇケンってば聞いてる?」
健吾は叫び出したい衝動に駆られた。
「まあ言葉を失うのも分かるけどさ、もしかしたら遊園地にあるようなアトラクションの──」
妹の両肩をぐわぁっしと掴み、
「ちょ、何?」
一気にまくし立てる。
「聞いてくれ妹よ。今この瞬間、お兄ちゃんにセカイ系の主人公フラグが成立した!」
「離して、」
そこはかとなく嫌な予感がしたのか肩の手を振りほどく明美だが、健吾の熱弁はさらに続く。
「きっとユイはエイリアンからの知られざる地球侵略に対抗するため、超科学をもつ秘密結社から人体改造を受けた最終兵器的なあれこれで、」
「?」
明美から借りたTシャツとジーンズという普段着姿でロボットの脚部を弄っていたユイが、何事かと怪訝な顔をしてこちらに近寄ってくるが、しかし健吾の熱弁は止まることを知らない。
「戦いに傷つき、疲れきっていたユイは、偶然にもある青年、つまり俺と出逢って恋に落ち、人を愛する幸せと安らぎを知ってしまう」
「もしもーし」
半眼になった妹の呼び掛けを聞かずにひとり白熱する。
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