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ロボットの頭部にシートを被せようとしたユイの手が、ふと止まる。
「見て〈ジールヴェン〉」
彼女は確かにそう言って空を見上げた。健吾たちに呟いたのではない。ロボットに向かってそっと語りかけていた。
「あの青い空。すごいよね。綺麗で、清々しくて。私たちの知っている空とは大違い」
視線をロボットに戻し、柔らかく微笑む。
「何故だか分からないけど、ここにはまだ戦火が広がってないみたい。平和で穏やかなところ」
そこで一転、寂しそうな笑みへと変わる。
「ほんの少しの間、あなたはここで休んで。メンテナンスもなしにこんなところにいるのは窮屈だろうけど、ごめんなさい」
頭部にゆっくりとシートを被せた。
「お休み。〈ジールヴェン〉」
◇
ユイが相原兄妹の家にやってきて二週間が過ぎようとしていた。
この一四日間、彼女は大量の地図や歴史書を読み漁ったり、街の周辺を詮索したりして「ここはどこなのか」という健吾達にとっては全く意味が理解できない質問の答えを探し回っていた。何故なら彼女自身は「ここが日本である」という自覚があるにも関わらず、「ここはどこなのか」と問うのである。
最初は安易に国内の地名や地理の問題なのだろうと考えていたが、それとは何かが、本質的な何かが違うのだという。
このまま彼女の存在を両親に隠し通せるとは思わなかったので、インターネットで知り合った海外の友達が日本に遊びに来る事になったから、暫くの間うちに泊めてほしいという強引な作り話をでっち上げて無理やり承諾を得た。
内心、この状況に健吾は拍子抜けしている。謎の美少女が謎のロボットと共に自分の家にやって来たのだ。これでワクワクするような事件のひとつやふたつ、起こらない方が不思議である。
エイリアンが攻めてきたり、ユイに惚れられたり、自分に特殊能力が開眼したり、そしてやっぱりユイに惚れられたり──。しかし現実は、彼女が同じ部屋でご飯を食べて違う部屋で寝ていること以外、いつもと何も変わらない日常だった。
いや、敢えて挙げるならばジルハムだ。普段ユイは、裏山に放置プレイ中のジルハムへ二日に一回は必ず会いに行く。こっそり後をつけて様子を窺ってみても、彼女はコックピットらしき場所に籠もるだけで機体を動かす素振りを見せない。
ところで、前述の文章に二つほど突っ込みどころがあるのにお気づきだろうか。
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