走るメタファー

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「声を揃えて怒鳴らなくても」  お前が変なコトを言うからだろうに。明美は一体何をしに来たのか。 「それより何だよ、大変なことって」 「そうだった大変なのっ。街のど真ん中にデカいロボットが現れたって、今そこら中で大騒ぎになってる」 「!」 「数と特徴は?」  二人の驚愕は一瞬、すかさず聞き返したのはユイである。 「実際に見た訳じゃないから詳しくは分かんないんだけど、聞いた話をまとめると多分一体だと思う」 「分かった。この子のシートを剥がすから手伝って」 「えっ! オ、オッケー。ほら、ケンもぼさって突っ立ってないで」  避難という選択の真逆を表すユイの発言に戸惑いを隠せない様子の明美だったが、すぐにその意志に従って健吾を促す。 「俺は──!」 「別にそれでもいいわ。けれど、」  再び重なった自分とユイの視線。息が詰まりそうになった。生まれてからの一九年、これほど強い眼差しを向けられたことがあっただろうか。続く彼女の言葉は、健吾の胸を大きく騒がせた。 「いつまでもそんな考え方で生きていたら、いつか必ず後悔する日が来るわ」  真正面からぶつけられたそれを、今はまだ自分の中に受け入れることが出来ずに、尻の穴が痒くなってくるような思いを味わう。この一〇分足らずの間に物凄い恥をかいた。そんな思いを誤魔化そうと、反射的に言葉を投げ返す。 「わ、分かったよ。手伝えばいいんだろ手伝えばっ」      ◇  コックピットの全てのモニターが輝きを取り戻す。プログラムを始動してOSを立ち上げる。  システム起動。動力炉、反応開始。CIF同調。データ群の流れるヘッドアップディスプレイとサブモニターを視認しながら、右手でタッチパネルを、左手でコンソールを操作する。待機状態をチェック──、異常なし。モード移行、プライオリティ正常値へ。前方左右に展開した大型モニターが、機体頭部のメインカメラが捉える外部の光景を映し出す。 「あなたの力が必要なの。さあ立って〈ジールヴェン〉」  四肢に電流が通い、低音で無機質な駆動音を響かせながら〈ジールヴェン〉が立ち上がる。 『すごいっ……! ホントに動くんだこれ』  明美が興奮気味に呟くのが聞こえる。傍らの健吾が僅かに口を動すのが見えた。流し視線の捉えたそれに、無意識が読唇術を駆使する。彼の漏らした言葉は「夢じゃない、すげー」であった。  
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