走るメタファー

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「君は何とか戦隊何とかレンジャーを知ってるか?」 「えぐ、えぐ、電脳戦隊デジタルレンジャーのことぉ?」  肝心な部分は全て何とかでぼやかすという酷いレベルの出たとこ勝負だったものの、どうやら脈あり。男の子が嗚咽しながらも興味を示した表情でこちらを見上げてくる。 「そうそれ、あれにロボット出てくるだろ? 今向こうで戦ってる青いのがそのロボだ」 「ちがうよぉ、超電脳合体ロボ、デジタルグレートEXはあんなんじゃないもん」 「なかなか手強いな。いいだろう、よく聞くんだ。実は……」  勿体ぶるように含みを持たせ、 「あれはまだテレビには登場していない新ロボット、ジルハムグレートなんだ!」  如何にも胡散臭い大仰なリアクションで健吾はついに言い放った。無駄にノリノリである。   「ほんとぅ?」 「ホントホント、再来週辺り登場予定だ」  同じことを二回繰り返して言う人は信じてはいけないと何かのCMでやっていたような気がするが、純真無垢な五歳の男の子は瞳を輝かせて泣き止んだ。 「だから坊や。悪のロボットを撃退する為に我々、えと、そう、地球防衛軍に協力しておくれ」 「きょうりょくするっ」   大粒の涙を小さな握り拳で拭い、男の子が興奮気味にほっぺを紅潮させてそう言った。やはり可愛い子だ。健吾はますます調子づいていく。 「いい子だ。よし俺について来い!」  重ねて言うが、無駄にノリノリである。      ◇  コックピット脇の小さなディスプレイに映る健吾が、男の子の手を引いて意気揚々と横断歩道から離れていく。  その光景を見て取ったユイは、直ぐさまフットペダルを力強く踏み込んで〈ジールヴェン〉のスラスターを出力。予測通りこれに反応した〈ミシア〉が推力を増加させ肉迫してくる。 「いつまでもベタベタと──」  路面を抉りながら国道線上を組み合った状態で乱舞する二機のNFA。 「私の〈ジールヴェン〉に触らないでぇぇ!」  〈ジールヴェン〉が右脚部後面に展開した光圧スラスターを全開にし、〈ミシア〉の胸部に膝蹴りを見舞う。強力な肉弾攻撃を与えられた〈ミシア〉が、〈ジールヴェン〉から吹っ飛ばされて仰向けの状態で路面に叩きつけられた。コックピット外郭に活きるアブソーバーの許容を遥かに凌駕する烈蹴とアスファルトへの衝突。パイロットは脳震盪を起こして気を失ったと見て間違いないだろう。  敵機制圧完了。  
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