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爆発に次ぐ、爆発。間髪入れず次のターゲットへ距離を詰め、最大稼働の左腕部が生み出す運動エネルギーをのせた強力な袈裟斬りで更に一機を葬り去る。
常に敵機との混戦状態を維持した戦闘機動。これにより遠方で〈ジールヴェン〉を狙う支援機が、誤射を恐れて狙撃を躊躇うのだ。遠距離からの集中砲火を封じる戦術のひとつである。
機体後面に展開する、背部中央の光圧式主推進を含む大小十一基ものスラスターが、重武装に反した高い機動力を〈ジールヴェン〉へ齎(もたら)している。敵陣を縦横無尽に掻き乱しながら、刻々と移り変わる戦いの流れに呼応してプラズマソードとビームランチャーを奔らせ、標的の〈ミシア〉を蹴散らしていく。
粒子の筋とスラスター光が戦場を飛び交い、命を散らす爆発が悲鳴のような輝きを放って機体表面に反射する。美しく醜い機人と死神の舞踏会がそこにあった。
八機目の〈ミシア〉を消し飛ばしたところでビームランチャーがパワーダウン。本来長時間連射を想定して開発された武装ではないため、長期戦で酷使すればこうなることは当然の帰結だろう。むしろよく砲身が耐えた方だ。
プラズマソードも発振装置の一部が既に欠損している状態で、刀身を形成するプラズマの流れが弱体化し切断力の鈍りも著しい。
限りが見え始めた〈ジールヴェン〉の動きを察知して、敵軍が巧みに距離を取った砲撃を浴びせてくる。前後左右に旋回しながら回避運動を行うが、第一装甲版を徐々に削られていく。
ああ、私ここで死ぬんだ。
生まれついてからずっと戦場にこの身を置いている自分には、死の覚悟など遥かに通り越した強い信念のようなものが備わっていると思っていた。実際に死線を切り抜けた経験も数え切れないほどある。しかし信念なんか、これっぽっちも持ち合わせていなかった。
これでフィナーレだ。死神の声を聞いたような気がした。
死への潔さではなく、
生への諦観。
その時だ。
腹部に熱と痛みが走った。
同時にコックピット内の全モニターが暗転、直後に再起動。膨大なデータ群を、狂ったようなスピードで演算しながら解読不能の奇怪な羅列を次々と流し出す。
「これは、何──?」
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