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パイロットすら知り得ない未確認機能の発現。声なき声を上げ、〈ジールヴェン〉が咆哮(ほうこう)していた。フレームに刻まれたスリットと全身を通うライン状の放熱帯から、青白い閃光を外部へ解き放ちながら。
震える左手をグリップから引き剥がして、己の腹部に宛がう。激しい熱。感覚という感覚がこの一点から新しく生まれ、次いで頭頂や手足の爪先へ向かって浸透していくかのような、激しい熱。それが更に強さを増していく事実を、身体の内と外から感じとる。
「ジール、ヴェン……あなたは、」
愛機の鼓動と叫びが自分の声を絡めとって、機体の解放する輝きが周囲の空間を脈打つように振るわせる。程なくしてそれは蠕動(ぜんどう)へ。世界が幾何学形に歪み、黄金の無慈悲で地上を圧制し続けていた空の暁を遮った。
異常な事態に反応した敵の〈ミシア〉群が〈ジールヴェン〉に向けて四方からさらに激しい一斉放射を開始。しかし青白い閃光が、それら全てを喰らい尽くし本体への着弾を阻む。
圧倒的な力の胎動だった──。
◇
〈ジールヴェン〉と相対する敵兵のパイロットたちは我が目を疑った。防御エネルギーフィールドのジェネレーターなど、遥か以前に停止していることが実証済みである。加えて言うなら、砲弾を無力化している力場の範囲が明らかに常識を越えている。
これはもはや通常の兵装ではない。後方で戦局を推し量っていた敵軍の指揮官がそう判断し、一時の後退を発令しようとして、手遅れだった。
青白い閃光はさらに大きく、大きく成長し、周囲を包み込んでいく。
やがて光が収束した頃、最前線で戦闘行動中だった二〇機近くに及ぶ〈ミシア〉はおろか、中心で光を放っていた〈ジールヴェン〉とそのパイロットさえ、この場から跡形もなく消え去っていた。
廃墟と化した軍事施設、誰もが予想し得ぬ結末。ただ一人の勝利者も出さぬまま、直径三〇〇メートルに広がるクレーターと、数機の〈ミシア〉指揮官機だけを残して、壮絶な消耗戦を呈したこの戦闘は終了を告げた。
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